tsukinosayakanari’s diary

コロナ禍で思ったこと

酸素療法とオキシメーターについて私が思っていること

新型コロナウイルスに罹患しても、軽症と判断されたり、中等度以上でも病院が満床のため入院ができず、自宅療養・ホテル療養している方が、2021/1/16時点で全国に3万人以上いたらしい。

だいたいCOVID-19の死亡率は1~2%なので、これだけ数が多いと当然、自宅療養中に死亡する方も増えていく。またやっかいなことに、この新型コロナウイルスは重症でも自覚症状に乏しい方が一定数いて、「幸せな低酸素血症=ハッピーハイポキシア」(沈黙の低酸素血症=サイレントハイポキシアとも)と呼ばれている。呼吸苦に関係する頸動脈小体にコロナウイルスが作用しているのでは?と言われているが、まだよくわからない。

 

自宅療養中でも重症な低酸素血症かどうかを患者自身が判断するために、パルスオキシメーター、経皮的酸素飽和度モニターが一般の方にも売れているそうだ。

医療従事者なら誰もが知っているし使えるパルスオキシメーター。サチュレーションともいう。指にモニターのクリップをはさむだけで、酸素飽和度が計測できる。

酸素飽和度とは、赤血球のなかのヘモグロビンが、どれだけ酸素と結合しているかを示した値。oxgen=酸素、saturation=飽和度で、SaO2はarterial、動脈の酸素飽和度、SpO2のpは、てっきり経皮的peripheralのpかと思ってたら、pluseのpらしい。

このSpO2で、動脈血液中の酸素の指標、PaO2を測定することができる。PaO2はpartial pressure of arterial oxygen、動脈血酸素分圧。この動脈血液中の酸素分圧を計測するには、本来なら動脈血を採血しないといけないから、患者さんは痛いし、血は出るし、血が止まりにくくなる人もいるし、もちろん失敗することもあるし、医療者も針刺しのリスクはある、気軽には計測できない。けど、呼吸不全を診断するにも、酸素投与という治療を開始するにも、この酸素の値がないとはじまらない。
しかし経皮的に計測できるモニターが開発されたおかげで、痛くなく、いつでも、非侵襲的に酸素飽和度が計測でき、こんにちの我々医療従事者には、なくてはならないモニターとなった。

この発明をされたのは日本の青柳卓雄先生で、残念ながら去年お亡くなりになられた。存命の時に、一度だけ学会でお見かけしたことがある。

 

動脈中の酸素分圧PaO2と、SpO2の関係は、酸素解離曲線にあらわされる。

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ナース専科より引用

だいたい正常の人のPaO2=90~100mmHg、ご高齢の方だと80mmHgで、これはSpO2だと95~100%。呼吸不全の診断基準のPaO2=60mmHg以下は、SpO2だと90%以下。これを下回ると、酸素解離曲線がS字カーブ状の特徴のため、PaO2の下がり方に対し、SpO2は一気に値が低下する。また、SpO2が80%台は、モニター自体の信憑性が低くなる。

 

SpO2が90%以下で呼吸が苦しい人がいれば、酸素療法が開始される。

COVID-19の患者さんで、自宅療法ができるのはこのSpO2が90%以上の人で、90%以下なら酸素投与が必要なので、通常なら入院が必要になる。

酸素の量が徐々に増えてきて重症となると、気管挿管・人工呼吸、最終的にはECMO・人工心肺装置の装着、といった流れになるだろう。

 

専門的な話にどんどんなっていくが、実は最近、重症呼吸不全患者に高濃度酸素投与は賛否両論、どちらかというと否定的である。

呼吸不全患者だけでなく、心筋梗塞脳梗塞の患者、心肺蘇生後の患者といった重症患者たちに、高濃度の酸素投与してもかえって予後が悪い報告が次々とされている。

PaO2>95mmHg、SpO2>95%を目標に酸素投与をするよりも、

PaO2=60mmHg、SpO2>90%を目標に酸素投与を調節したほうが、予後がよい。

最近のメジャーな報告はほぼそうだ。

酸素は、なくてはならないものである一方、本来なら生物にとっては猛毒なため、臓器障害がおこってしまう。

実際、コロナはじめ重症な方に高濃度酸素を長期間使用すると、肺が線維化となってしまって、人工呼吸器が一生はずせないという人もいる。

 

いったん窒息・低酸素脳症になったときのリカバリーが不可能だからと思って見逃していたけど、今まで行っていたルーチンの酸素投与は有害になる、ってことだったのか、と最近自省している。

まあ、急変現場でSpO2 はかれません!70%台です!とかなら躊躇なく酸素投与するんだけどね。

 

そうなると、SpO2だと90%以上のモニタリングは優れているけど、本当に酸素投与が必要なのかどうかの要になってくるSpO2 80%前後に精巧なモニタリングが求められているのかもしれない。

最近気になっているのは、最新版のApple Watchには血中酸素測定の機能がついているらしいこと。

今までも心電図が計測できるという、一般人は評価できなくても、急変にはすごく役に立つんじゃと思える何得な機能がついていたApple Watch

COVID-19の自宅療養患者で、どんどんSpO2が低下する、酸素が必要、といった急変にも、役立つのではないかなー

 

いずれにしろ、病院のネームバンド代わりにこういうウェアラブル端末をつけてもらう未来はもうすぐかも。